生産者の背景に感動して料理をする。食べている時の顔を見るのが好きなんです【フードデザイナー・たかはしよしこの定番論】

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フードデザイナーのたかはしよしこさんの瞳は小さな女の子ようにいつもキラキラと輝いている。それは彼女が感動と幸せを日々たくさん発見していて、それを誰かに届けている人だから。東京・西小山にあるアトリエ「S/S/A/W」を訪れて、日々の暮らしを尋ねてみた。


■季節を追いかける人

使いやすそうに並べられた器や鍋の数々や、壁に飾られたソフトコーラルのような自然のもの。アトリエには、愛情と時間をたっぷり注がれ集まったモノたちがそこかしこに溢れていて、主人の人柄そのまま、どこか懐かしくて心地良い空間を作っている。

「S/S/A/W」の名は春夏秋冬から。アートディレクターとして働く旦那さんが「君はいつも、季節を追いかけている人だから」と提案してくれた。そう、たかはしさんの一年は、四季が育むおいしい食材が握っている。「季節、季節で取れる物があまりにもおいしいから、それを追いかけて作っているんですよね」と、ほころばせる目元が優しい。

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東京・西小山にあるアトリエ「S/S/A/W」


メニューは何より生産者ありき。「この時期が一年で一番」をまとめた野菜リストを手に、春なら春、冬なら冬のものだけ。旬の食材以外がテーブルを飾ることはない。「純粋においしいものって、純粋な環境で、生産者がまっすぐな気持ちで作ったもの。食べるとそれが全部入ってくるんです。私もその背景に感動して料理しているから、説明しなくても体に入ればきっとわかってもらえるという変な自信がある(笑)。伝えたいし、食べてもらいたい。それに、食べている時の顔を見るのが好きなんです。食を通じて感動を共有できたらいいなって思います」。


■“好き”だけが共通するモノ選び

もともとインテリアを志して上京したたかはしさんだが、ある時、大きな空間デザインよりも「私はもっと身近な、すぐ目の前の世界を見ている」と気づき、天職となる料理の道へと飛び込んだ。仕事でも生活でも、彼女の暮らしの柱となるのは食。けれども、たかはしさんは衣食住すべてのシーンを大切に日々を過ごしている。

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「どれも全てつながっていますよね。おいしい食事にはいい器が必要だし、それならいいテーブルや、いい空間、心地よい自分でいられる服だって必要になる」。でもそれは、必ずしも高価なブランドでもなければ、どこかの国にも縛られない、ひとつに限定されない世界だ。「絶対にこれっていうのはないんです。いろんなジャンルに好きな人やモノがあるし、どこの国の作家でも“いいな”って思えればそれでいい。何かわからない、ゴミのようなものだっていいんです(笑)」。

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今昔も、洋の東西も問わず、“好き”かどうかだけを基準に選ばれたものには、彼女が大事にしてきたもの全てがしっかりと映し出されている。「世の中、ぱっと見てカッコいいものはたくさんある。だけど私は、じーっと見続けても飽きないものに惹かれるんです。もうそれは中高生の頃から変わってない(笑)。渋いモノへの憧れです」。


■食は1日にたびたび訪れる“幸せ”だと思う

料理でも、彼女が目指すのはじんわりと心に沁みる深い味わいだ。「おいしい料理を作る人って五万といますよね。みんなのお母さんもそう。それぞれに役割があって、それなら私は、滋味深い料理が作れたらいいなって思うんです」。生産者と同じように、そう料理にまっすぐ向き合うたかはしさん。その毎日は幸せにあふれている。そして実は、私たちの日常にも。「作り手からもらった感動に包まれて料理していると、とっても幸せな気持ちになれるんです。食べている人にもそれは感覚的に伝わりますよね。音楽を聴いたり、展覧会に行ったり、感動をもらう体験はいろいろあるけど、毎日ではない。でも食は、1日に何回も訪れるから、何度も、細かく幸せがやってくるんです。家族でもその時間を共にしたくて、朝と夜は夫と娘と3人で食卓を囲むようにしています」。

なぜなら、それは“宝物”だから。「鹿児島睦さんの絵本の帯に“おいしいキオクは宝物”と書いてあって、本当だなって思ったんです。私は4人兄弟で家族が多かったんですが、母は出来合いのものはほとんど使わず料理を作ってくれました。揃って食べるのがうんざりするほど当たり前の毎日(笑)。でも、今振り返るととても大事な時間だったと感じます。物を買い与えられた記憶はあんまりないけれど、おいしいものを一緒に食べた思い出が何よりのギフト」。

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目先のモノではなく、体験を通して養われた価値観。彼女が娘さんに届けたいと願うのもそんな感性だ。そして仕事でも、未知の味覚に出会い脳内の細胞がパッと開いてしまうような感動を、誰かと分かち合っていきたいとたかはしさん。「私も幸せで、食べている人も幸せ。それが嬉しくって、今日もアトリエのキッチンからみんなの顔を眺めてしまうんです」。


【staff】
photographs : Hideyuki Seta
hair & make-up : Shirouzu Mayuko(roraima)
text : Aiko Ishii

《石井愛子》

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