エルメス「petit h」でつくる“夢”--パスカル・ミュサール【INTERVIEW】

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考え、時間を掛け、ものをつくることは尊い。4月29日から5月17日までの期間限定でエルメス銀座店にて展示・販売されている「プティ アッシュ(petit h)」は、そんな人の想像力と手仕事の素晴らしさを実感させてくれるコレクションだ。

来日したプティ アッシュのアーティスティック・ディレクター、パスカル・ミュサールは、「オブジェが皆さんに語り掛けるものであってほしい。一つひとつを夢や愛を持って、崇高なものに仕立て上げようと思いながらつくっています」と想いを話す。

プティ アッシュは2010年よりスタート。アトリエにはエルメスの全メチエ(部門)を横断して素材と職人が集まっている。製作はまず素材ありきだ。熟練の職人とパスカルが招くアーティストが、クロコダイルスキンやサンルイのクリスタル、ピュイフォルカの金属、プレタポルテのテキスタイル、カレ、ボタン等々を用いて、ディスカッションしながら自由にクリエーションする。それは夢を紡ぐようで、その場はまるでエルメスの小宇宙。パスカルは「夢見て、機能もあるオブジェを作ってくださいね」と伝えるという。

当初は僅少な傷などにより使われなかった素材やオブジェを使用していた同コレクション。今ではそれだけにとどまらず、面白そうな素材に着目して新しいオブジェを生み出す実験室のような機能を持つまでに進化した。プティ アッシュのコレクションからインスパイアされ、仕様をモディファイし通常のエルメスコレクションとして販売されるものもある。つまりクリエーティブな感性がエルメス内で循環するようになったのだ。このシステムのそもそもの発端は、最高の要素を掛け合わせたいというパスカルの想いから。

「初めからメチエを横断させるプロジェクトにしたかったのです。レザーの職人やスーツケースの職人らと、アーティストらが経験を持ち寄ったら、お互いに刺激されて相乗効果を生み出すと直感的に思ったの」

加えて彼女のものづくりへの愛だ。

「エルメスはかなりの時間を掛けて素材を選び、丹念にものづくりをしています。これを考えると素材やオブジェを簡単に捨てるわけにはいかない。半年ごとのファッションサイクルには違和感を覚えます。手仕事のものづくり、素材を見る目を育てていかなければなりません。私がやろうとしていることは、人としての当然の良識なのです」

■軽やかに前へ進む

4年ぶりの日本上陸ということもあってか好評を博し、既に完売しているアイテムもあるというコレクションは、ブランコやテーブルなどの大型のものから鳥居型アクセサリー、箸入れ、ペンケースなど手頃なものまで様々なアイテムがそろう。パスカルの真摯な哲学から、楽しく、ウィットに富んだこれらの作品がアウトプットされるのだ。このアティテュードがとてもエルメスらしい。

「オブジェは決して必要なものではありませんよね。しかし、クリエーションの素晴らしさ、欲しいという気持ち、ものから感じる夢など、こういった感興があるから人は前へ進んでいけるのだと思います。だから我々は探求し、思考してつくるのです。
またジャン=ルイ・デュマ(エルメス家5代目CEO)から、亡くなる直前にこう助言をもらいました。『物事は軽やかに考えた方がいい』と。つまり、高慢に、深刻にならずファンタジックな夢を持って取り組むことが肝要です」

パスカルには天真爛漫、自由闊達という言葉がよく似合う。そして誰よりも素材とつくることを愛している。エルメス家第6世代に生まれた彼女は、メゾンの歴史に連綿と受け継がれてきた職人へのリスペクトをその佇まいの内に常に携えているのだろう。

「私より前の世代の人々は先を見ていたと感じます。常に常に美しいものを求め、忠実に仕事をこなし、ぶれないで(現在の)下地を作ったと思います。その下地の上で仕事をしているわけです。私達はpetit(小さい)だけれど、先人たちの仕事をしっかり踏襲して、未来を作っていきたいですね」と生き生きと話す姿はとても軽やかだった。

《Mitsuhiro Ebihara》

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